「脳の血流調節メカニズム」の版間の差分

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脳血管
 
脳血管
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 図1は、生きたマウスの脳の血管構造を3次元的に画像化したものである。図を見て分かる通り、多くの血管が複雑なネットワーク構造を形成している。脳は、他の臓器と比べても多くの酸素とエネルギーを消費する。脳内に張り巡らされた脳血管ネットワークは、組織へのエネルギーや酸素を供給し、二酸化炭素や老廃物を排除する重要な役割をもつ。さらに脳血管は、神経活動と連動して血管内を流れる血液の量と速度を調節している。
 
 図1は、生きたマウスの脳の血管構造を3次元的に画像化したものである。図を見て分かる通り、多くの血管が複雑なネットワーク構造を形成している。脳は、他の臓器と比べても多くの酸素とエネルギーを消費する。脳内に張り巡らされた脳血管ネットワークは、組織へのエネルギーや酸素を供給し、二酸化炭素や老廃物を排除する重要な役割をもつ。さらに脳血管は、神経活動と連動して血管内を流れる血液の量と速度を調節している。
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神経―血管カップリング
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 脳内で神経活動が生じると、周辺領域の脳血管を流れる血液(脳血流)が局所的に増加する(図2は、マウスの大脳(体性感覚野)の表面から脳血流を2次元的に測定した画像である。左が脳表画像で、右が神経活動による脳血流増加率を示す)。このような局所的な脳血流増加は、神経活動の直後(数百ミリ秒以内)に生じ、活動期間中は高い値を維持し、神経活動低下とともに低下する。さらに脳血流の変化率は、周辺の神経活動量に依存する。このような神経活動と脳血流の密接な関係を、神経-血管カップリングと呼ぶ。神経活動時、基本的には血管平滑筋や血管内皮が弛緩して血管が拡張することで脳血流が上昇する。この神経から脳血流を上昇させるまでの過程では、多くの血管拡張因子が関与している。また、近年、アストログリアが、神経活動と血管との間をつないで血管拡張因子を放出するなど、血流調節に深く関与していることが明らかとなっている。また、血管を取り巻いているペリサイトと呼ばれる細胞が弛緩することで血管径をコントロールしていることが報告されており、また、ペリサイトは血管平滑筋の活動への関与も示唆されている。ただし、神経-血管カップリングのメカニズムは完全に明らかにされているわけでなく、今後も地道な研究が重要となる。
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神経の活動時と抑制時の脳血流調節
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 神経活動時の脳血流調節について上述したが、神経機能が抑制された時も脳血流に変化が生じる。代表的なものとしてCrossed cerebrallar diaschisis (CCD)があげられる。これは、脳梗塞などの疾患で大脳の一部が損傷すると、損傷領野が信号を送っている先の脳領野の神経入力が低下する(すなわち、器質的な障害を伴わない神経機能抑制の状態が生じる)。その結果として脳血流が低下するという現象である。CCDは、遠隔機能抑制とも呼ばれる。図3は、生きたマウスの脳に神経活動時と遠隔機能抑制1日後を再現した時の脳血管画像である。脳神経活動時には、活動前と比べて血管が拡張し、遠隔機能抑制1日後は、抑制前と比べて血管が収縮することが観察できる。
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脳血流の主要なパラメーターとして血流速度と血流量があげられる。これまでにヒト(ポジトロン断層法(PET))やげっ歯類(レーザードップラー血流計)の脳血流測定において、神経活動時の血流増加は血流速度の増加が主に寄与し、遠隔機能抑制時の血流低下は血液量の低下が主に寄与することが明らかにされている。

2014年5月20日 (火) 14:19時点における版

脳血管

 図1は、生きたマウスの脳の血管構造を3次元的に画像化したものである。図を見て分かる通り、多くの血管が複雑なネットワーク構造を形成している。脳は、他の臓器と比べても多くの酸素とエネルギーを消費する。脳内に張り巡らされた脳血管ネットワークは、組織へのエネルギーや酸素を供給し、二酸化炭素や老廃物を排除する重要な役割をもつ。さらに脳血管は、神経活動と連動して血管内を流れる血液の量と速度を調節している。

神経―血管カップリング

 脳内で神経活動が生じると、周辺領域の脳血管を流れる血液(脳血流)が局所的に増加する(図2は、マウスの大脳(体性感覚野)の表面から脳血流を2次元的に測定した画像である。左が脳表画像で、右が神経活動による脳血流増加率を示す)。このような局所的な脳血流増加は、神経活動の直後(数百ミリ秒以内)に生じ、活動期間中は高い値を維持し、神経活動低下とともに低下する。さらに脳血流の変化率は、周辺の神経活動量に依存する。このような神経活動と脳血流の密接な関係を、神経-血管カップリングと呼ぶ。神経活動時、基本的には血管平滑筋や血管内皮が弛緩して血管が拡張することで脳血流が上昇する。この神経から脳血流を上昇させるまでの過程では、多くの血管拡張因子が関与している。また、近年、アストログリアが、神経活動と血管との間をつないで血管拡張因子を放出するなど、血流調節に深く関与していることが明らかとなっている。また、血管を取り巻いているペリサイトと呼ばれる細胞が弛緩することで血管径をコントロールしていることが報告されており、また、ペリサイトは血管平滑筋の活動への関与も示唆されている。ただし、神経-血管カップリングのメカニズムは完全に明らかにされているわけでなく、今後も地道な研究が重要となる。

神経の活動時と抑制時の脳血流調節

 神経活動時の脳血流調節について上述したが、神経機能が抑制された時も脳血流に変化が生じる。代表的なものとしてCrossed cerebrallar diaschisis (CCD)があげられる。これは、脳梗塞などの疾患で大脳の一部が損傷すると、損傷領野が信号を送っている先の脳領野の神経入力が低下する(すなわち、器質的な障害を伴わない神経機能抑制の状態が生じる)。その結果として脳血流が低下するという現象である。CCDは、遠隔機能抑制とも呼ばれる。図3は、生きたマウスの脳に神経活動時と遠隔機能抑制1日後を再現した時の脳血管画像である。脳神経活動時には、活動前と比べて血管が拡張し、遠隔機能抑制1日後は、抑制前と比べて血管が収縮することが観察できる。 脳血流の主要なパラメーターとして血流速度と血流量があげられる。これまでにヒト(ポジトロン断層法(PET))やげっ歯類(レーザードップラー血流計)の脳血流測定において、神経活動時の血流増加は血流速度の増加が主に寄与し、遠隔機能抑制時の血流低下は血液量の低下が主に寄与することが明らかにされている。