体色変化

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動物の体表は様々な色・模様(体色)を呈しており、中でも硬骨魚類などの変温脊椎動物や、甲殻類頭足類は様々な環境刺激に応答して体色を素早く変化させることが知られている。このような「体色変化」において、光は最も主要な環境因子の一つである。ここでは変温脊椎動物の体色変化とその光による制御を中心に述べる。


体色変化の生物学的意義

 ヒラメカメレオンは体色を背景そっくりに変化させること(背地適応)により、捕食者や被食者から自己をカモフラージュ(隠蔽)する。また体色変化は、婚姻色に代表される同種異個体間でのコミュニケーション、有害な紫外線の遮蔽、赤外線の吸収による体温維持などにも重要な役割を果たすと考えられている。


体色変化の種類

 体色変化は、そのメカニズムから大きく2種類に分類される。一つは「形態学的」体色変化とよばれ、色素細胞の増殖・分化・アポトーシスなどを介して、組織内の色素細胞密度や色素沈着量の変化により、比較的長期にわたり進行する反応である。ヒトの日焼けはその一例であり、黒色素細胞(メラノサイト)の増殖や、メラノサイトから表皮へ分泌される色素顆粒の増加により、引き起こされる。もう一つが後述する「生理学的」体色変化であり、色素細胞(色素胞)中での色素運動により、秒・分スケールの比較的速いスピードでおこる。ヒラメカメレオンなどに見られるカモフラージュがこれに相当する。


色素胞と生理学的な体色変化

 変温脊椎動物や無脊椎動物の色素細胞は「色素胞」とよばれる。鳥類哺乳類の色素細胞(メラノサイト)とは異なり、色素胞は色素物質を分泌せず、細胞内の色素物質が運動性をもつ。変温脊椎動物においてはこれまで6種類の色素胞が同定されており、「黒色素胞」「黄色素胞」のように、その細胞が発現する色調を冠した名称が与えられている。変温脊椎動物の皮膚には通常複数種の色素胞が存在し、その色素胞の組み合わせにより多様な体色を呈する。

 生理学的な体色変化の実体は、色素胞内での素早い色素運動である。黒色素胞など多くの色素胞は、樹枝状突起を伸展させた平たい細胞形態をもつ。色素胞の中心部から周辺部へは多数の微小管が放射状に伸びており、色素物質を含む細胞小器官(色素顆粒)はこの微小管に沿って中心部と末端とを行き来する。すなわち、色素顆粒が細胞の中心部に凝集すると色素の占有面積が減少し、逆に色素顆粒が細胞全体に拡散すると色素の占有面積が増大する。これにより細胞全体の色調が変化する。例えば黒色素胞において、メラニンを含む黒色素顆粒が細胞内を拡散すると細胞の黒化度が増し、体色が黒く変化する。

 一方、反射性の色素胞である虹色素胞は、前述の場合とは異なり、反射小板という色素器官を含有する。この反射小板の集合体における薄膜干渉現象により、反射光が鮮やかな構造色を呈する。また、反射小板の移動などにより反射光の色調が大きく変化する。


光による体色のコントロール

 動物の体色、すなわち色素細胞の色調は様々な環境因子により影響を受けるが、その中でも光は最も主要な因子の一つである。変温脊椎動物の体色変化において最も重要な光受容器官は眼球であるが、松果体などの脳内光受容体や色素胞自体の光感受性の寄与も知られている。

 眼球から色素細胞への光情報の伝達は、神経系や内分泌系を介して行われる。硬骨魚類においては主として神経系を利用する。この場合、眼球からの情報は延髄・脊髄神経等を通って最終的には体表の色素胞に到達する。一方、爬虫類両生類では内分泌系がメインルートであることが多い。例えば両生類の場合、眼球からの光情報は脳下垂体に伝達され、さらに脳下垂体から分泌される黒色素胞刺激ホルモン(αMSH)を介して色素細胞に伝達されると考えられている。

 眼球には視覚の光受容細胞である視細胞が存在することから、体色変化(背地適応)を光制御するのは視細胞であると考えられてきた。しかし最近の遺伝学的研究から、硬骨魚類の背地適応に視細胞は必要でないことが示唆されている。また、視細胞以外の網膜ニューロン(水平細胞・アマクリン細胞など)にも光受容分子が存在することがわかっている。したがって硬骨魚類の背地適応には、視細胞を含む複数の光受容細胞が寄与する可能性があるが、その実体はまだ同定されていない。


色素胞の光感受性

 色素胞自体が光感受性を持つ例が、様々な動物において報告されている。これらの色素胞の中には、光依存的に色素が凝集するものと拡散するもの、また、光の波長(色)により異なる応答を示すものなどがあり、いずれの光応答性を示すかは動物種や色素胞の種類により異なる。これらの光感受性色素胞の中には、視物質もしくは類似蛋白質のmRNA発現が検出されている例があり、これらの蛋白質が光感受性に寄与するものと推定されている。